アイドル

昔住んでいたマンションに、とある女性が住んでいたのだが、数年に一度、最寄り駅で彼女の姿を見かけることがある。

彼女は私が中学生の時に高校生だったので、私より2、3歳年上である。

おそらく彼女は私のことを認識していないが、私は彼女のことを認識している。

何故なら彼女が可愛いかったからだ。

つい先日、数年ぶりに彼女のことを見かけたのだが、ちょっと見ない間におばさんになっていた。

時間は残酷だなと思った。

乗車券

​通勤中、改札で立ち往生しているおじさんがいた。

おじさんは、エラーになっているのにもかかわらず、ICカードをかざし続けるものだから、改札には人が溢れていき、渋滞ができた。

ようやく諦めたかと思ったら、周りの視線には目もくれず、不思議そうに首を傾げるおじさん。

首を傾げたいのはこっちである。

改札に引っかかった時、首を傾げる人と、頭を下げる人の2パターンに分かれるが、圧倒的に前者が多い気がする。

日本人が謙虚というのは本当だろうか。

ポカリスエット

駅の自販機の前で、家族と思しき三人組を見かけた。

母親は、娘が首からぶら下げたピンク色の水筒に、たった今自販機で買ったであろうポカリスエットを注いでいた。

そしてその様子を、早く飲みたいと言わんばかりに、兄が無言で見つめていた。

おそらく、兄と妹で分け合うのだろう。

私もかつて幼かった頃は、妹と共に、同じように母の手によって満たされていた。

思えば、家族が揃っていたときは良かった。

今は色々辛いだけだ。

出前

​写真は中華料理「宏苑」の豚ロース丼。

父親が生前、一緒に出前を取ったときの写真をたまたま発見した。

父はあまり夜ご飯を食べなかったが、たまに出前を頼んで一緒に食べた。

浴びるように酒を飲む人で、基本飲み終わるまで食事に手をつけない。

だから、いつも泥酔の状態で出前を食べていた。​

おそらく、その時の意識はほぼなかったんじゃないかと思う。

出前の中でも、特に良く頼んでいたのがちらし寿司だった。

ちらし寿司を頼むと、父は丼の上の魚介だけを食べ、ご飯を綺麗に残していた。

最初、私はそれを見て衝撃を受けたが、次第に、刺し身頼めばいいのに…と思うようになった。

今思えばあれは、魚介だけを食べる前提でちらし寿司を注文していたのだろうか。

それとも、意識のない状態の中、本能のままに魚介だけを貪っていたのだろうか。

今となっては知るすべはない。

花火

たまたま自宅から見えた花火。

この歳になると、純粋に綺麗だなあ、とはあまりならない。

音楽や香りと一緒で、花火とリンクして色んなことを思い返してしまう。

昔、大人はどうして花火で泣くのかな?と思ったことがあるが、今では気持ちがよくわかる。

美学

とある、おじさんの料理配信にハマっている。

丁寧に煮干から出汁をとって味噌汁を作るかと思えば、わざわざ筋子からイクラを作り、大雑把にご飯に盛り付け、汚い机で食す。

おじさん特有の強いこだわりを感じる。

きっと、自分だけの美学があるのだろう。

思えば、私の亡き父親も、チルドの肉まんをわざわざ蒸し器で蒸していた。

私はそれを見て、電子レンジでいいだろ、と思っていた。

立ち上がる湯気の中に、何か特別な時間を見出していたのだろうか。

ウオツネ

近所の昔からある鮮魚店が閉店したというのをネットニュースで知った。

調べたら、生まれる前からやってたらしくて驚いた。

駅直結のショピングセンターの地下にあり、昔ながらの店構えが好きで、特に何も買わないのだけど、よく足を止めて商品を眺めてたりしてた。

6切れぐらいの刺し身が500円ぐらいしたりして、高っ!って行くたびに思ってた。

客観的に見れば、ただの冷やかしである。

自転車の女性

歯医者が終わって車で家まで帰る途中、横断歩道で女性に道を譲ったんですが、その女性が渡り際に満面の笑みで会釈をくれた。

ほんの一瞬の笑顔で、こんなに他人を明るい気持ちにできるのかと驚いたのと同時に、自分も真似したいなとも思ったけど、多分自分には恥ずかしくてできない。

そういうのってきっと、その人の人柄だったり、才能なんだろうなあと思う。

ヤマダ電機

こないだヤマダ電機に行った時の話なんですが、女の子が1人でSwitch2の試遊をしてました。

コントローラーを握りしめ、真剣な表情で遊んでる彼女のことを、私はゲームが陳列されている棚の隙間から見ていました。

ある瞬間、何かに勝利したのか、はたまた何かを発見したのか、女の子がニヤッと笑って、その無垢な笑顔に元気を貰いました。

因みに、ロリコンではないです。

大江戸線

通勤中、電車待ちで並んでたところに男が横入りをしてきた。

見た目は坊主頭で、ガタイの良い男だった。

その男、すごい勢いで空いてる優先席に座るやいなや、顔につけてたマスクを外したんですが、マスクの下が驚くほどの髭面で、伸びかけの坊主頭が相まり、かなりの異様さを放っていた。

鞄の中をゴソゴソやってたので、刃物でもとり出すのかと思いきや、汗ふきシートを取り出してガシガシと顔を拭き始めた。

なるほど、だからマスクを外したのか、と思ったのも束の間、顔を拭いてたシートを滑らせるようにして頭全体を拭きあげた。

坊主って楽だなと思った。